現在から未来への進化する、プロセスオートメーションI/Oのトレンド (Part 2)

本記事は 月刊『計装』 2022年6月号 「監視制御システムの近未来展望~ DCS/SCADA, リモート IO特集」にも掲載されています。
計装22年6月号 (ice-keiso.co.jp)

本記事の Part 1 からの続き。。。

3.Ethernet APL で統一した通信を実現

複雑なゲートウェイソリューションは過去のもの

Ethernet は企業内で統一した通信を行うための理想的なソリューションである。しかし、従来のEthernetのコンセプトはPA のすべての要求を満たさない。そこで大手メーカは関連団体と協力して、新しい物理Ethernet 層を基盤にしたオープン規格、Ethernet-APL を共同で開発している。

プロセスプラントはグローバルな競争の激化に直面している。利益率が低下する中それに対抗するには、より多くの製品をより良い品質で最小限のエネルギーや資源の使用で製造することが必要である。同時に製造工程を環境に配慮して改善し、廃棄物や排出物を可能な限り削減しなければならない。これらの目標を達成するにはデジタル化が重要である。製造業ではIIoT(Industrial Internet of Things)やインダストリ4.0 がすでに日常生活の一部になっている。近い将来これらのコンセプトと関連技術は、PAにも導入されるであろう。

IIoTとインダストリ4.0 をプロセス技術に導入する際の課題は、工場全体のすべての必須データにアクセスし、その分析によってプロセスを最適化し工場の効率と稼働率を向上させることである。PA システム全体からの情報が必要である。Ethernet は企業で標準の通信として使用されているが、PA での伝送要件を満たしていない。使用するには以下の要件を満たす必要がある。

  • 2 線式ケーブルの使用
  • 最大1,000m までの長距離通信に対応
  • 簡単な設置技術
  • 電源供給とデータ交換が同じケーブルで可能であること
  • 防爆および本質安全防爆への対応

3.1 あらゆるEthernet ベースプロトコルの使用

Ethernet-APL プロジェクト内で、当社と他のプロセス技術主要サプライヤはユーザが策定した特性を満たす2 線式Ethernet ソリューションの実現に取り組んでいる。標準化団体PI、FieldComm Group、ODVA、OPC Foundation とともに産業界が協力し、PA で使用する新しいEthernet 物理層に基づくオープン規格を策定している。2 線式ケーブルのEthernet with an advanced physical layer(Ethernet-APL)は、長いケーブル長、爆発危険区域での使用、オプションで同一ワイヤペア上の機器への電力供給を可能にする。Ethernet-APL は既存のフィールドバスケーブルを再利用できるため、コストを削減しフィールドバスから Ethernet-APL への移行を容易にする。

Ethernet-APL は物理層の代替に過ぎず、Ethernet上のオートメーションプロトコルは全て使用可能である。PA のEx ゾーンに設置された機器やセンサを直接2線式Ethernetで接続できる( 「Ethernet in the field」)。ユーザは複雑なゲートウェイなしにフィールド上のデータにアクセスできる。Ethernet-APL はPA でIIoT の実現を可能にする効率的な基盤であると言える。全社的なEthernet 通信はフィールドの末端まで実現可能になった。

3.2 本質的安全性の簡易的な証明

IEEE 802.3cg-2019 に準拠した10BASE-T1L 規格がEthernet 伝送の技術的な基礎である。2020 年2 月に公開されたシングルペアEthernet 規格は同じPHY技術を使用し、プロセス技術だけでなく、ビルディングオートメーションや産業オートメーションなど他の市場セグメントにも対応している(図1)。Ethernet-APL は10BASE-T1L 規格を補完し、PA で必要な拡張機能を含んでいる。屋外設置の必要性や爆発危険区域での保護に起因するものである。追加された電気パラメータはそれぞれIEC 規格に準拠し、相互運用性と適用の容易性を保証する(表1)。Ethernet-APL は10BASET1Lを使用し、1000m の距離まで全二重10Mbps の伝送速度でデータを伝送する。HART やフィールドバスなど現在プロセス技術で使用されている通信より300倍以上高速である。

図1 IEEE 802.3 で定義されたEthernet-APL とSingle Pair Ethernet
表1 Ethernet-APL の基本仕様

Ethernet-APL は、ネジまたはスプリングケージ接続によるケーブル接続が可能である。4-20 mA のシールド付き2 線式ループを接続するのと同じくらい簡単にドライバのみの工具で接続できる。Ethernet-APL は防爆仕様として、IEC TS 60079-47( 2-WISE)により危険なゾーンやエリアでの本質安全防爆を規定している。この規格により、ユーザは複雑な計算なしにEthernet-APL での本質安全防爆を簡単に示せる。

3.3 セグメントの種類とスイッチの特性の規定

Ethernet-APL は冗長性もある柔軟な設置トポロジーを実現できるように設計されている。古典的なスイッチ構造によって、エンド機器でもスイッチでも他の機器とポイントツーポイント接続できる。通信相手間の各接続は、「セグメント」を形成する。Ethernet-APL スイッチはセグメント間のデータ伝送を分離する。干渉を除去し、他セグメントの機器エラーから通信を保護する。

Ethernet-APL では2 種類のセグメントタイプが規定されている。APL トランクは、1000 メートルまでのケーブル長に対応する高い電力と信号レベルを提供する。APL スパーは低電力であり、オプションで本質安全防爆仕様、200m までのケーブル長に対応可能ある。スパーポートはEthernet-APL フィールド機器のデータおよび電源接続に使用される。

Ethernet-APL スイッチは,次のような特徴で区別される。

  • APL パワースイッチは1 つ以上のトランクポートに電力とデータを供給する。自身は外部から電圧供給される。
  • APL フィールドスイッチにはAPL スパーポートがあり,フィールド機器や計測器を接続する。通常スイッチからそれらに電力供給する。スイッチ自体はEthernet-APL ケーブル(トランク)または外部から供給される。

用途に応じ両タイプのスイッチに標準的なEthernetポートを追加し,上位ネットワークへの接続も可能である。

3.4 相互運用性の確保

Ethernet-APL スイッチを適切に使用すると、小規模構成から長いケーブルが必要なシステムまで柔軟にネットワークトポロジーを構成できる(図2)。小規模アプリケーションではトランクの構成と電源スイッチの使用を省略できる。

図2 大規模システム向けEthernet-APL トポロジー
(ケーブル長1000m までのトランク)

4. 結論

モジュラI/O とEthernet-APL の近年の開発(当社もEthernet-APL スイッチを発表済)により,Ex エリアへのネットワーク接続が可能になり、柔軟性を高め設置コストを削減できる(図3)。さらにHART やNAMUR やEthernet-APL のフィールド機器からの追加情報や診断機能は、保守コストを削減し、デジタル化を促進する。

図3 産業用ネットワークを使ってI/O をEx エリアに分散化するオプションを多数選択可

補足

2019年11月、NAMUR 年次総会と2020年2月、ARCフォーラムで試作品Ethernet-APLフィールドスイッチを利用した動的デモシステムが発表されました。10BASE-T1Lの標準化が承認され、2020年2月にIEEE 802.3cg-2019規格が発行されることで、イーサEthernet-APL プロジェクトは重要なマイルストーンに到達した。半導体メーカーは2021年に最終的なPHYチップの生産を開始し、最初のEthernet-APLデバイスに組み込むことができるようになった。

NAMUR 年次総会:試作品 Ethernet-APL フィールドスイッチの動的デモシステム
Ethernet-APL フィールドスイッチ

上記のEthernet-APLフィールドスイッチはIIFES 2024で日本初展示予定です。
是非、フエニックス・コンタクトのブースにお越しください。

会場:東京ビッグサイト(東京都江東区)1階 西2ホール【ブース1-23】
展示会公式サイト:https://iifes.jp/
当社IIFES2024出展見どころ:https://www.phoenixcontact.com/ja-jp/iifes

参照

関連リンク

パンフレット:オートメーション・イノベーション (PDF)

Ethernet APL
情報ページ:https://www.phoenixcontact.com/ja-jp/technologies/communication-technologies/ethernet-apl

プロセス系I/O機器「Axioline P シリーズ」
製品ページ:https://www.phoenixcontact.com/ja-jp/products/plcs-controllers-and-i-os/remote-i-o-systems#ex-e6tk

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